作家・渡野玖美(わたりの・くみ)

 

厳しい五里峠開拓団での素晴らしい風景と私生活を書いている。 

 

図書館の郷土の作家のコーナーに渡野玖美(わたりの・くみ)さんの「五里峠」という本があったので手に取る。五里峠ってどこだろうと確認すると、志賀原子力発電所の南東に当たるところだ。

最後のページに「防風林とは名ばかりだった松ノ木林がすっかり体を成し視界を遮っていた。その防風林の向こう側に能登ロイヤルホテルとゴルフ場、そして更に彼方には志賀(能登)原発が建設中だ。」とある。

早速借りて読んでみると、重い内容だった。五里峠というのは戦後に海外引揚者の開拓団が入植し、開墾した所。

主人公である由美子の家は一番見晴らしの良い場所に立てたのだが、大型台風で屋根が飛び、くぼ地に丸木で屋根を組み熊笹を葺いた便所も台所も玄関もない竪穴住居のような家に住む。雨が降ると雨漏りはもちろん、土壁からじわじわと水が滲んできて何もかも湿っぽくなってしまう。

母親は温泉場に仕事に行ったきり戻らず、父も荒れ狂う。そんな大変な生活だが、親子の情愛はものすごく深い。(現代は豊かになった反面、人間関係が逆に薄くなっているのかも知れない)

由美子は家を出て朝鮮の人と結婚し、父は開拓団で新興宗教をやっていた増田の母ちゃんとすったもんだのあげく再婚する。

生活は重いが、五里峠から見る景色は素晴らしく、頂上に来ると心がぱあっと広くなっていく。

・・・・そんなような作者の生活そのものを描いた私小説ですが、惹きつけられる物があり、一気に読みました。

  

作家・渡野玖美(わたりの・くみ)

 ホームページに作者のページがありましたが、渡野玖美(本名・山本紅美江)さんは平成16年に亡くなられたようです。ご冥福をお祈りいたします。

石川県羽咋郡志賀町字五里峠出身

石川県立羽咋高校卒

東京栄養食糧学校栄養本科卒

石川県加賀市山代温泉でスナック・カンナを経営しつつ執筆活動を続ける。

昭和22年9月生まれ(享年56歳)乙女座/O型

平成2年 北陸中日新聞主催 第1回日本海文学大賞小説部門大賞受賞

(受賞作「五里峠」は単行本/文庫本になっている)

平成15年 碧天文芸大賞入賞作「墓標のない墓」

 同人誌『金澤文學』初代編集長

日本ペンクラブ会員

日本海文学大賞小説部門予選選考委員

石川県加賀市 市民文芸誌 「文藝かが」小説選者・編集委員

 猪谷池開発事業

昭和24年度から26年度にわたって猪谷池の隧道の接続部や土質不良部の隧道の補修工事が国営農地開発事業として施工された。昭和35年(1960)に入って、志賀町ではこの溜池の近くにある開拓地の五里峠地区での開田計画に、この水源として猪の谷池を利用することとし、町が事業主体となって同36年度には開拓地改良助成事業として堤体の嵩上げと余水吐改修に着工した。この貯水量増によって 五里峠地区で約8haが開田され、入植農家の生活安定に大きく役立つことになった。

 トップページに戻る